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Sew イベント 短歌で世界を切りとる方法

コ ト バ カ メ ラ

レポート

■思いを切り取る形式

「短歌教室の先生はできないけれど、言葉で世界を切り取る方法を一緒に考えることならできるかもしれません。」

これはワークショップの講師をお願いした時に、山口さんから返ってきた答えです。山口さんは新進気鋭の歌人。今春はじめての歌集を出版され、今、まさに注目を集めている存在です。

「短歌の形式はずっと昔、貴族たちが詠んでいた時代から続いてきているんです。ほかにもいろいろな和歌の形式があったはずなのですが、時がたつにつれて淘汰されていきました。ただ、短歌が残ってきたのにはちゃんと理由があると思うんです。それはたぶん、日本人の気持ちや、日本の情景を表現し、残しておくのにちょうどいい形式だったからだと思います。自分たちにあっていたから長い時を経ても変化せずに受け継がれてきたのではないかと。」

確かに、古語、現代語の壁はありますが、奈良時代や平安時代に詠まれた歌に今ふれても、情景を思い描いたり、共感を覚えることができます。丁寧に言葉を選んで短歌の歴史や形式を語る山口さん。その説明の端々から短歌愛があふれてきます。

「短歌って本当に何を詠んでもいい、どんな表現をしてもいい自由なものなんですね。でも、ひとつだけ、五七五七七という形式は意識してほしいんです。もちろん崩しても詠めますし、崩した方が効果的な場合もありますが、最初は形式を意識して詠んだほうが歌の佇まいといいますか、雰囲気が良くなるんですよ。」

歌人のあいだでも、短歌の詠み方は様々だそうです。一気に五七五七七を詠んでしまう人。五七五と七七を分けて作り、後で組み合わせを考える人。五、七というフレーズを集めておいて、そこから膨らませていく人などなど。いずれにしてもみなさん五七五七七を意識していることには変わりありません。


■見つけ出す、ひねり出す

「みなさん、お好きな雑誌を選んでください。その記事の中に実はたくさんの五、七が隠されています。それを拾い上げ、つなげて五七五をつくると、その雑誌の雰囲気というか全体像が見えてきます。」

『明星』、『ベスト・カー』、『猫ぐらし』、『FIGARO』、『Number』、『つり丸』…Sewのカウンターの上に通常、書店の同じ棚には収まらない、多様なジャンルの雑誌が並べられました。何もないところからいきなり歌を詠めといわれても初心者には難しいということもあり、まずは身のまわりにある五、七を見つけ出し、そこから俳句を組み立てるワークがはじまりました。

「新日本 G1灼熱 つむじ風 さらに威力を 増すラリアット」 (週刊プロレスより)
「いいんです モテる胸元 思いきり」(LEONより)
「けんかして ハグしてキスして ラブラブで」(ゼクシィより)

電車に乗っていて中刷り広告のふとしたフレーズが「五七五だ!」と気づくようになるともう立派な短歌脳という山口さん。

「いい歌を詠もうと意気込まなくても、雑誌の中にある言葉をつなげるだけで人に“あっ”って思わせることができます。それくらい自由に言葉を選べるのが短歌の長所なんですね。肩の力を抜いて、自然に出てきた言葉を大事にしてみて下さい。」

お互い雑誌から生まれた歌を披露し、意見交換をしたことで場も温まり、参加者のみなさんが感じていた短歌に対するハードルも下がってきたようです。


■状況を推測し、視点を交換

次のワークは「名歌の後半、七七を考える」というものです。スクリーンには名歌と言われる歌三首の前半、五七五が表示されています。

「摩訶不思議思ひもかけぬわが知らぬ」 北原白秋『雲母集』1915年
「体力のおとろへきつてる昼ごろは」 前川佐美雄『植物祭』1930年
「暴力のかくうつくしき世に住みて」 斉藤史『魚歌』1940年

それぞれチームでこの中から一首選び、後半の七七をつなげます。同じ前半を読んだとしても、受ける印象は人それぞれ。各グループ「この状況はいったい何のことを言っているんだろう」とか「なんで体力がおとろえているんだろう」と歌の意図を探り出す作業から始まります。そして、山口さんから正解(もとの歌)が発表されると「そうくるか!」「あー、なるほど」といった声が。意外な後半をつなげる「飛ばし」という技法についても説明があり、さらに短歌の自由さが伝わってきました。


■歌の世界に自分を置く

事前にワークショップのプログラミングを行う際、ワークに関する様々なアイデアが浮かんでは消えていきました。しかし、そんな中で山口さんが一貫してこだわられていたのは「最後に参加者一人ひとりに歌を一首詠んでもらう」ということです。

「短歌の特長として前半の五七五で情景や出来事を詠み、後半の七七で自分の心情を詠むという構成が多くみられます。俳句は五七五なので瞬間の切り取りで終わってしまう。でも短歌はさらに自分の思いを入れられるんですね。せっかくこういう機会なので、自分の心情も込めて一首詠んでいただく、その経験をしてほしいなと。」

山口さんから出されたお題は「夏の夜」。本日Sewでの体験をもとに詠んでもいいですし、過去の夏の夜に関する経験を詠んでもかまいません。

「いきなり詠めと言われても困りますよね。そこで短歌でよく用いられるテクニックをいくつか紹介します。さらにお手元にはこれらのテクニックを書いたサイコロを用意しました。コトバ選びに詰まったらこれを振って出た目に従うのも悪くないと思いますよ。」

各グループに「オノマトペ」、「枕詞」、「会話」、「字余り/字足らず」、「飛ばし」、「比喩」と書かれたサイコロが配られます。浮かんできた言葉の音数を指折り数えて整え、推敲をかさねて一首にまとめていきます。最後に、そうやってできた一首を短冊に筆ペンでしたためて本日のワークは終了となりました。


■言葉が残す世界と自分の距離

短歌のワークショップというと、短歌をうまく詠む方法、短歌の鑑賞法を知るといったものが一般的です。しかし、今回のワークショップは短歌を下敷きにしつつ、豊かに存在する世界から情景や出来事を切り取り、そこに自分を置いて伝える方法を身につけることを目的として設計されました。

通常、ビジネス文書や仕事のやり取りでは感情を挟まず、具体的な単語でやり取りすることが良しとされます。一方、詩の世界、歌の世界では抽象的、幻想的な単語を用いることもできますし、何より作者の立ち位置表明が重要とされ、感情を込めた表現が求められます。前者のテクニックを身につけるだけでなく、後者のテクニックに触れることで世界をより豊かに感じることができるのではないかというのも今回のワークショップの狙いです。

「『コトバカメラ』というタイトルにあるように、短歌って日常生活をスナップショットするのにとても役立つんです。ちょっとしたことって忘れてしまうし、かといって全部写真に撮っておけば残せるかというと、それはそれで結構大変ですよね。また、写真は写っている対象を見て、それは何だったかを思い出します。反対に短歌や俳句は言葉を読み返して、情景を頭の中に再現するんです。情景や出来事を詠み、そこに自分の思いが込められた短歌は、写真とはまた違った方法で、私たちが世界とどう接してきたのかを思い出させてくれる素敵な存在だといえます。」

今回のワークショップでは、言葉で世界を切り取るためにさらなる訓練が必要ということで、終了後一週間にわたりFacebook上で「コトバカメラ短歌教室」を開きました。日々起こる出来事の中で、心に響いたことを短歌にし、参加者と共有、意見交換をするとともに山口さんからのアドバイスももらえる歌会のような仕掛け。連日ネット上にはたくさんの歌が投稿され、活発なやり取りが起こりました。

普段から接している言葉の力を引き出して、生活に彩りをつけたり、経験を残したりしようとする「コトバカメラ」。様々な言葉をやり取りしたこのワークショップもまた、皆さんの記憶に言葉とともに縫い付けらる貴重な機会になったのではないでしょうか。

開催日時2015年8月5日 19:00 - 21:00
会    場Future Work Studio Sew
開催場所東京都千代田区紀尾井町4-1 ニューオータニガーデンコート10F
定    員16名
参 加 費1000円(材料費として)
主 催 者山口文子 / Sew運営委員会
概要
「飛行機雲するするのびてゆく空に飛行機だけが不在の土曜」

「活字追うようにあなたを追いかけて栞をはさむように眠って」

「数寄屋橋ビヤガーデンから東京の夏は濃度を増していくらし」


形に残しておかなければ忘れてしまいそうな、細やかな日常やなにげない風景。
それを心に刻むための一番簡単な方法として「言葉」を使ってみませんか。

日記、詩、俳句…言葉を使って表現する手段は数多くありますが、今回のワークショップは「短歌」です。
神話の時代から百人一首、そして現在まで、脈々と同じ三十一文字「57577」で詠い継がれてきた詩型です。なんだか不思議ですよね。

短歌をうまくつくるための教室ではありません。
言葉を使って世界を見つめるキッカケとして「人間の体温に一番近い詩型」とも言われる短歌の魅力と親しみやすさをご紹介します。

新しいカメラを買うと、なんでも撮影してみたくなりませんか?
新しく「短歌」という表現に出会って、日常を切り取る楽しみに目覚めたら、ちょっとわくわくする。かも!



☆イベント終了後の自由参加特典

日常生活を「短歌でスナップ」

イベントで身につけたスナップ手法を日常生活で試してみませんか?
山口さんのご厚意により、イベント終了から一週間、SNS上で自作短歌の投稿を受け付けます。投稿された短歌には山口さんからコメントが寄せられる他、他の参加者の方からも感想がもらえます。

イベント、その場限りで終わらない余韻を楽しみたい方にお勧めです。



*冒頭の短歌はすべて山口さんの歌集『その言葉は減価償却されました』に収められています。


詳細説明 <タイムテーブル>

18:30 開場
19:00 ごあいさつ&レクチャー
19:20 ワークショップ① 雑誌で575
19:40 ワークショップ② 秀歌の77を考える
20:00 ワークショップ③ 短歌かるた
20:30 題詠 短歌を詠んでみる
21:00 講評 + 懇親会
22:00 終了

山口 文子さん

歌人
脚本家

中学時代より短歌を始め、2015 年2月に14~28歳までの短歌をまとめた歌集『その言葉は減価償却されました』(角川学芸出版)上梓。「りとむ短歌会」所属。
広告代理店勤務を経て、東京藝術大学大学院映画専攻脚本領域を修了。映画や企業PVの脚本・企画に参加。

マンガを介してコミュニケーションをはかる集団「マンガナイト」でも活動中。

注意事項

カルチャースクールで行われている短歌教室とは異なり、短歌の技法で世界を切り取ることを目的とした内容となっております。初めて短歌に触れる方向けの内容です。

・ご来場の際は、ニューオータニガーデンコート1階オフィスエレベーター前の警備員の方にお声掛けの上、
10階にお越しください。

参加方法 本イベントは終了しました。

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